今回、嶋田先生から、聖路加国際病院での取組みや実績、全国的・国際的な指標、実例等を基に、QIをどのように始めればよいか、QIを用いてどのようなことができるのかについて教えていただきました。
講演内容を一部紹介します。
【どのようなことができるのか?できたのか? ~QIを用いた医療の質向上への取り組み~】
聖路加国際病院では「医療の質を改善し、過去に提供していた医療よりも、今日来院した患者の方がより良い医療を受けられる状態にする」という目的のもと、2005年から取り組みがスタートしました。以降4年間を通してQIの測定と改善活動が繰り返し行われ、その実績は書籍により一般公表を実施するまでに至りました。その具体的なサイクルを追っていくことで「どのように始めればよいか・どのようなことができるのか?できたのか?」が見えてきます。
・QIの指標の選定
患者の結果を良くしたいということであれば、結果に対する評価が必要となります。したがって、「変化が見やすい指標」「短期で結果が出る指標」を選ぶことが望ましいです。また、改善活動により医療の質が大きく向上する指標(当初の達成度が低い指標)に着目し、「改善可能な指標」を選ぶことが肝要です。
・QIの算出
調査の対象となる症例について、米国が公表している指標をベースにサンプルを算出し、課題と改良点を見出し、精度を高める手法を考察しました。
調査したい指標、QIに対する考え方の照会を行うとともに、サンプル指標を示し、値の改善する方向に意識をシフトさせるためにヒアリングを行いました。また、QIの算出に参考となる文献や資料を提供し、実際に出てきた値について、現場と一緒に検証し、改善を進めました。
・多職種による検討、改善策の決定・実行
各種委員会や当事者、関連職種など他職種で指標に対する要因分析を進め、改善策を決定します。改善策の中でも、勉強会・研修会の実施は効果が大きく、専門診療科の医師から他診療科の医師に向けた最新の医学知識の勉強会を実施したところ、医師全体の知識の底上げにより、医療の質が向上した実績があります。
【根拠がない場合はどうする? ~転倒・転落へのQI委員会の対応~】
医療の中でも医学的な根拠のないものもあり、例えば転倒・転落の発生やインシデント事例等については、事例ごとに専門の研究組織を発足させ、実際に起こった事例をベースに収集データの解析・検討を行い、改善を図りました。
・設備投資
病室・トイレ内・ベッド周辺での転倒率が半数を占めていたため、段差の解消、手すりの設置等により環境を整えました。また、現場の提案により姿勢補助用の器具を導入し、転倒率を抑えることができました。
・アセスメントの改善と徹底
既存の転倒・転落アセスメントシートの適用が徹底されていない実態が判明したため、アセスメントの項目の見直しにより適用しやすい形に改善するとともに、適用の徹底を周知しました。
【13項目から7項目に厳選】
・患者説明の方法の改善
転倒・転落予防のための患者・家族への説明書を用いて、周知と注意喚起を図りました。
【質と価値 ~改善すること~】
聖路加国際病院として10年間改善に取り組む中で、改善に必要なことが見えてきました。
・他人に見られている、監視されているという意識があるだけで、パフォーマンスや値が向上することがわかったため、例えば指標や結果の院内掲示を行うだけでも効果があります。
・エビデンスとの比較・過去の数値や他施設との比較は、どこに問題があり、どう改善していくのかを考える動機づけになります。
・個人による改善の努力だけでなく、組織としてどうすれば良くなるかという組織的アプローチが肝要になってきます。
【質と価値 ~管理から文化へ~】
毎年各部門で人の入れ替わりが起こるため、いつの間にか組織内の常識が非常識に変わっていることが考えられるので、常に毎年同じことを職員に対して周知する組織的な対応が重要になってきます。また、改善していくという文化を根付かせて、職員が自発的に取り組む組織をつくることが今後の大きな課題です。
【参加者の感想】
参加者からは、「始めるだけではなく、継続することが難しいと感じた」「測定しなければ見えないということを実感した」「プロセスを重視し、質の向上に資するデータ分析が必要だと感じた」等の声がありました。
当院では現在、平成28年3月開催予定の総合医学会総会に向けて、各診療科・部門が「診療の質の評価」について取組を進めています。今回の講演内容を踏まえ、各診療科・部門での取組が一層深いものとなり、医療の質の向上に繋げられるよう、組織内への浸透や質改善文化の醸成に努めたいと思います。