田川市立病院総合医学会の取り組み
平成22年度から病院医療の向上を図ることを目的に、病院全職員が1年間一つのテーマについて教育・研修・研究を総合的に行う「田川市立病院総合医学会」を実施しています。
平成22・23年度は「医療安全」、平成24・25年度は「DPC(包括医療)」、平成26年度は「救急医療」をテーマに取り組んできました。そして平成27年度は、「医療の質」をテーマに取り組むこととしました。
総合医学会 第1回例会
平成27年度テーマ『医療の質を測り、改善しよう』
田川市立病院は、「医療の質」を本年度の総合医学会のメインテーマに取り上げました。
平成27年6月11日に開催した第1回例会では、日本における医療の質向上活動の先頭に立って取り組まれている済生会熊本病院 院長の副島秀久先生に講演していただきました。
■演題 「Big Dataと医療の質管理
~電子クリニカルパスの有効利用~」
■講師 済生会熊本病院
院長 副島 秀久 先生
・パスはなぜ生まれたのか |
・バリアンスの治療学的意味 |
・クリニカルパスの定義 |
・ビッグデータの活用 |
・クリニカルパスの目指すもの |
・パスによる“医療の質向上”のプロセス |
・プロセスの標準化と効率化 |
・クリニカルパスのこれから |
・標準化の意義 |
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・パスの全体構造 |
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・アウトカムの分類 |
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・パス分析システム |
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・電子パスからデータを収集するためのルール |
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・バリアンス収集・分析 |
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クリニカルパスとは、入院から退院までの診療計画を立てたものです。日本クリニカルパス学会は、「患者状態と診療行為の目標、および評価・記録を含む標準診療計画であり、標準からの逸脱を分析することで医療の質を改善する手法」と定義しています。クリニカルパスは、医療の不確実性の原因になる医療者のバラツキ、患者のバラツキ、工程のバラツキのうち医療者と工程のバラツキを制御するために生まれたものです。
副島先生は、済生会熊本病院でクリニカルパスを使用し、医療の質を向上させています。 今回の講演ではクリニカルパスをどのようにして医療の質の向上につなげていくのかを教えていただきました。
講演内容を一部ご紹介します。
【クリニカルパスの目指すもの】
クリニカルパスは、医療を標準化するものであり、治療の基本型を作ります。クリニカルパスを実際に使用していく過程でバリアンス(逸脱)が発生します。その時、その原因を分析し、対策を取ります。そのバリアンスを収集し、分析してクリニカルパスを改訂していくことで、より良いクリニカルパスになり、医療の質の向上に繋がるという仕組みです。
特に、バリアンスが発生した時が重要で、内容がわかるようにしっかりと記録を残すこと、その内容を共有することが大切になってきます。
【バリアンスの治療学的意味】
バリアンスは最も重要な情報であり、収集し、分析することで改善点がわかり、経験を個人の範囲に留まらせず組織全体で共有することができます。バリアンスをもとにパスを改訂し、治療成績を向上させることが大切です。つまり、経験の集積から「知識」が導き出されます。
【ビッグデータの活用】
パス分析システム等から抽出したビッグデータを活用することにより有用な医療がわかり、無駄な医療行為を知ることができ、経験では気づかないことにも気づくことができます。例えば、診断確率に影響しない検査は止めるという判断ができ、逆に診断確率や治療確率を向上させる検査や治療をパスに組み込むことで、効率的に治療することができるようになります。
【パスによる“医療の質向上”のプロセス】
医療の質向上のために図のようなプロセスを踏みます。 「クリニカルパスの目指すもの」でも説明したように、クリニカルパスを作成して使用することで、バリアンスデータが収集できます。それをもとにパスの改訂を繰り返すことで医療の質を上げることができます。
【感想】
今回の講演会に参加した職員からは、「バリアンス評価の大切さを改めて知ることができた。漠然と観察や記録をするのではなく、今後の看護に生かせるデータ収集を行い、より良い医療を提供したい」という声がありました。