平成27年6月2日(火)に、腹膜透析についての講演会を開催しました。今回は、初めて腹膜透析に携わる看護師や介護施設職員を対象に腎臓内科部長の松尾俊哉医師が講演しました。
■講師 内科(腎臓・透析)
内科腎臓内科部長 松尾俊哉 医師
■内容
・腎臓の働きと腎不全治療
・腹膜透析とは
・バッグ交換の流れ
・腹膜透析(PD)の種類と方法
・腹膜透析の原理
・透析液
・SMAP法
・合併症(PD腹膜炎)
・自宅等での異常事態への対処
・腹膜機能検査など
腎臓は、①老廃物の除去②水分(体液量)の調節③電解質のバランス調節④血液を弱アルカリ性に保持⑤造血刺激ホルモンの分泌⑥ビタミンDの活性化⑦血圧の調節⑧不要になったホルモンの不活化などの働きがあります。その働きができなくなった場合の治療方法(腎不全治療)としては、①~④の場合は透析療法、⑤~⑦は薬物療法、そして①~⑦の全体に関しては腎移植があります。
今回の講演では、看護師や介護施設の方から要望があった透析療法について講演しました。透析療法には、血液透析(HD)と腹膜透析(PD)がありますが、自宅等で行う腹膜透析(PD)について、松尾医師が基礎的な知識を始め感染症や自宅等での異常事態への対処方法等を説明しました。
講演内容を一部ご紹介します。
「腹膜透析とは」
お腹の中に透析液を入れ、腹膜を使って透析(老廃物や水分の除去)を行う治療方法です。具体的には、お腹に植え込んだ管を使用し、お腹の中に、バッグに入った約2?の腹膜透析液を入れます。約4~8時間後にこれを空のバッグに出して捨て、新しいバッグに交換し、お腹に透析液をいれます。このような操作を自分で行うため、自宅や職場でできる在宅治療のひとつとされています。
「腹膜透析(PD)の種類」
腹膜透析(PD)には様々な種類があります。
1 CAPD(連続携行式腹膜透析):1日4回程度、お腹の透析液の入れ替えをします。
2 APD(自動腹膜透析):就寝中に器械を使用して自動的に透析を行う方法です。
APDの中には、CCPD(連続周期的腹膜透析)、タイダールPD(干潮腹膜透析)、NPD(夜間腹膜透析)という3種類の方法があります。
「腹膜透析の原理」
腹膜透析は、「拡散」と「浸透圧」の2つの原理を利用します。
「拡散」:濃度の違う物質が半透膜を介して存在するとき、同じ濃度になろうとして物質が移動する現象を利用し、老廃物の除去を行います。反対に、体に不足しているものがある場合は、透析液側から体内に入ります。
「浸透圧」:浸透圧の異なる液体が半透膜を介して存在するとき、浸透圧の高い方から低い方に液体が移動する現象を利用し、水分の除去を行います
症状は、腹痛、排液混濁、発熱、下痢などです。腹痛の特徴として、腹部の圧痛は腹部全体におよび筋性防御を認めるからです。限局した腹痛は、急性虫垂炎のような外科的な病因が隠れていることも考慮しなければなりません。
原因は、不潔操作、カテーテル損傷、憩室炎、トンネル感染、出口部感染などです。最近の日本での調査における平均発症頻度は、一人当たり5年に1回となっています。
「自宅等での異常事態への対処」
自宅等での異常事態の対処について詳しく説明がありましたのでご紹介します。
異常事態 |
家庭での対処法、原因 |
病院での対処法 |
接続チューブ先端の汚染 |
クランプが閉じている事を確認
キャップを装着する
接続チューブを1か所できれば2か所結ぶ |
接続チューブ交換
場合により抗生剤投与 |
接続部の離脱、チューブの損傷 |
中枢部を結ぶ(できれば2か所)
先端部、損傷部をガーゼで包む |
接続チューブ交換
場合により抗生剤投与 |
透析液の濃度を間違えた |
注液前であれば正しい濃度の透析液に交換
注入後であれば病院に連絡 |
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器械(APD装置や接続器の不具合) |
マニュアルの確認
コールセンターに連絡し指示を仰ぐ |
器械の故障なら代替器に交換 |
腹痛 |
排液する。APDの場合はツインバッグか排液用のバッグを使用 |
排液混濁なら、その排液を持って病院へ
細胞数、培養、医師に連絡 |
排液混濁 |
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混濁した排液バッグを病院に持参
細胞数、培養、医師に連絡 |
排液が赤い |
女性の場合、排卵期や逆行性月経
腹膜の微小血管損傷など |
医師に確認し指示を仰ぐ |
排液注液に時間がかかる |
クランプが閉じていないか確認
カテーテルの屈曲、閉塞、位置異常など |
APDが無理なら一時的にCAPDに
カテーテル位置異常は自然回復する事が多い
無理なら修復術 |
松尾医師は、腹膜透析療法の基本的な原理や方法、合併症に関して説明しました。腹膜透析は自宅で行えるため、血液透析と比べて高いQOL(生活の質)を維持することができると述べました。ただし、自宅で透析を行うため、透析を行う本人や家族への教育が重要とのことでした。
そして、透析を行うのは本人や家族だけではありません。介護施設の職員や訪問看護で腹膜透析患者さんをサポートする方々の介入が治療の成否に関わるため、そのような方々と病院が連携することが重要だと訴えました。
講演会に参加した職員の中には腹膜透析に関わったことのない看護師も多くおり、今回の講演で、「どのようなメカニズムなのかがわかり、トラブル時の対応方法も聞けてよかった」という声が聞かれました。
また、介護施設の職員も多く参加されており、「合併症の原因や対処方法を知ることができ、今後に生かしていきたい」、「講演を聞くまであまり関係ないと思っていたが、今後、腹膜透析患者を受け入れていくことも考えられるので勉強になった」と話しており、腹膜透析への理解が深まったようでした。